製品レビュー ~フルフィルスタジオ 株式会社フルフィル 田中 誠士様 フルフィルスタジオは2012年頃から企業ビジネス系のクリティカルな分野でのネット生配信業務を数多く行なってきました。お客様の特性上、プロダクションにおける安全性や確実性は最も重要視するポイントであり、その上でRolandのコンバーター製品を多数導入し、システム上の重要な箇所へ導入してきました。生配信業務において積極的にRoland製品を活用しており、これまで弊社のスタジオ安定稼働の上で重要な役割を果たしてくれています。今回は新リリースされたRoland 4K Video Scaler VC-100UHDについて、実際に使用した感想を綴りたいと思います。 当社としてのこれまでのRoland製品との関からお話ししましょう。既存製品となるHDバージョンとなる Roland Scan Converter VC-1-SC は当社にとってなくてはならない存在です。変換後出力信号の信頼性、設定の柔軟性、本体の耐久性など、各方向から総合的にみて現場対応力が高く、信号変換の上で何度も現場で助けられてきました。VC-1-SCはいわゆるスケーラー製品ですが、今回のVC-100UHDもそうしたスケーラー製品の4K対応版となります。4K機材とHD機材のパイプ役となり、高度化したハイブリット環境を構築する上での課題解決につながるものと期待しました。 VC-100UHDを手に取ってまず感じられる事は、本体の強固な作りについてです。メタル筐体のコンパクトなハーフラックサイズで、DCプラグの抜け防止のストッパーが付属するなど、ユーザー目線の細かな配慮が見て取れます。 フロント部に視認性の良いドットマトリクスのディスプレイが装備されています。また、2つのフロントノブ操作だけで素早く変換設定の変更が出来ます。シンプルで直感的なメニュー構造で分かりやすく、少し使えばすぐに慣れる操作性です。VC-100UHDでの信号変換の現在の状況が視覚的に一目で分かり、インプットソースの信号フォーマット、アウトプットソースのフォーマットもリアルタイムで監視できます。入力信号のロック切れも素早く判断できるのでトラブルシューティングの判断材料にもなりますし、即座に設定変更を行えることは生配信現場にとって強い武器になります。 2020年はコロナ渦において、各方面で配信ニーズが急激に益々高まっています。無観客配信イベントもあれば、ウイルス対策を徹底した上での観客数を抑えて実イベントを行いつつネット配信も行うハイブリッド型のイベント構成も増えてきました。そうした現場の例では、4Kカメラで内部収録を4K-RECとし、時としてRAW収録もしつつ12G-SDI-OUTをそのまま4Kスイッチャーでスイッチングして、4Kスイッチャーからの4K-PGMソースに対してライブグレーディング処理を行ってレコーダー収録もしつつ、そのライブグレーディングされた信号を送出するLUT-BOXからの12G-SDI-OUTソースを入力してリアルタイムスケーリングしてHDでネット配信し、さらに現場でのビジョン出しも行う、といった現場があります。 こうした現場では4K信号とHD信号が混在し、各機器が出力する信号フォーマットや受け付ける信号フォーマットもそれぞれ異なることから、各機器に適した信号フォーマットでやり取りを行う必要があります。生配信というものはまさに生き物であり、私たちはその生きている現場を手術(オペ)しているわけです。その上での本線となる経路上に配置する機器には安定性が欠かせません。上記のような現場では、本線上に配置するスケーラーは非常に重要な役割を果たすことになり、現場の土台形成をするものと言っても過言ではありません。VC-100UHDはそうした任務にも積極的に導入できる信頼性があると感じました。 実際に弊社銀座スタジオでの番組収録現場で、RED KOMODO の12G-SDI-OUTからの変換に使用してみました。VC-100UHDのスケーリング品質について、入力ソースに対して忠実に変換され、いわゆる色転びや黒もぐりなどの色変化もなく、安定した品質であることを確認できました。また、スケーリング遅延も極小であり、実質的にリアルタイムで高速変換されていました。稼働中の機器本体の温度もほんのり暖かい程度で上昇することもなく、スケーラーを含むコンバーター製品にとってこの絵の忠実性と安定稼働性というは最も重要な要素ですから、安心して現場投入できます。 またVC-100UHDにはHDへのダウンスケーリングに対応したUSBストリーム出力がありエンコーダーマシンへの入力機器として機能させることもでき、シンプルな機器構成でリアルタイムスケーリングでの安定感のあるHD配信環境を構築できます。この「シンプルな機器構成」というのは生配信現場では重要であり、配信トラブル要因を最小限にすることにより安全性確保に繋がります。昨今ではZOOMやWebEXなどのミーティングツールをプラットフォームにした配信もあり、そうしたケースにもUSB ストリーム出力を使用することもできるでしょう。 さらにVC-100UHDにはメイン/サブ・プロセッシングでスケール機能があり、上記のようなビジョン出しが必要な場合にも本線とは別系統で、しかも別の設定でのスケーリング出力が可能ということで、現場での急な設定対応にも素早く対応できるものと思われます。 スケーリング機能として重宝するだろうと個人的に感じる点にも触れておきます。VC-1-SCにも搭載されているサイズ・ポジション機能が地味ですが便利な機能です。その機能がこのVC-100UHDではROI機能としてさらに高機能化して搭載されています。いざという時にきっと役に立つと感じます。例えば、上記のような現場ではサブ出力側で部分的にリポジションして一部を切り出して出したいという場合が考えられ、現場で急に対応せねばならないという時が少なからずあり、痒いところに手が届く柔軟性があります。他にも縦置きディスプレイに出力したいという場合もあるでしょう。そうした時にも回転処理と切り出し処理を使って柔軟に対応することもできます。 痒いところに手がとどくという意味では、音声系統の処理も充実しています。例えば、エンベットされた音声に対してのディレイ処理なども搭載されており、リップシンクの微調整もVC-100UHD内で完結させられるという強みもあります。エンベット、ディエンベットもVC-100UHDで行うことができるため、絵音管理の上でも活躍するかと思います。 また、e-Sports 配信やカンファレンス配信の現場では、PCからの画面ソースの変換にもスケーラーは多用されます。そうした中で、ハイフレームレートでの取り込みを行いたいという場面があります。VC-100UHDでは、HDMI 240Pといったハイフレームレートのソース入力や、HDR-SDR変換といったカラースペース変換にも対応しているということで、ハイフレームレートかつHDR出力に対応したPS5やXBOXなどのゲーム機の発売に後押しされるように、さらに加速するであろうe-Sports配信ではVC-100UHDが威力を発揮するだろうと感じました。 VC-100UHDは4K-HDハイブリッド環境を柔軟に構築する上でのお守りとなり、今後の現場対応力を支えてくれるものだと感じました。 弊社では昨今、配信業務に関する問い合わせ件数も急激に増加しており、各業界によりニーズは様々ですが、総じて言えることは、あらゆる映像信号ソースへの即時対応が必ずと言っていいほど要求されるということです。突如に発生する様々な信号ソースを軽やかに受け付け、安定した稼働環境を実現することができればこそ、より高度な演出や複雑なオペレーションにも集中することができるというものです。 当社としてはRolandのスケーラー製品には大きな期待と信頼を寄せています。VC-100UHDを今後の戦力機材として使用していきたいと思います。 田中誠士 2002年に独立し株式会社フルフィルを設立。2011年、フルフィルスタジオ大阪を設計し同録クロマキースタジオとして運営開始し、2016年にフルフィルスタジオ東京銀座をオープン。数多くのスタジオ配信、映像制作に携わる。プロデューサー、テクニカルディレクター、カメラマンとして活動を広げ、過去実績は1000案件を超える。 使用製品 VC-100UHD VC-1-SC お問い合わせ システムに関するお問い合わせは、こちらから。 お問い合わせ