放送局が行うライブ動画配信の現場とは [ライブ配信のすゝめ] Vol.06 放送局が行うライブ動画配信の現場とは ~KBC九州朝日放送 九州朝日放送株式会社 様 txt:岩沢卓(バッタネイション) 構成:編集部 「RIZAP KBCオーガスタゴルフトーナメント2019」のライブ動画配信を実施 福岡県糸島市の芥屋ゴルフ倶楽部を会場に、2019年8月29日(木)~9月1日(日)の日程で開催された「RIZAP KBCオーガスタゴルフトーナメント2019」。今年で47回目の開催となる歴史ある大会である。 KBC九州朝日放送主催の本大会は、テレビ朝日系列で全国ネットを行なっており、大会二日目~最終日の模様は地上波による放送が実施された。インターネット向けコンテンツとして、選手のインタビュー動画や練習風景、ライブ動画配信など、独自コンテンツも充実したものとなっていた。 今回は、予選を含めた大会開催中の全日程で行われた、8番ホールのライブ動画配信の現場の様子をお届けしたい。 8番ホールの全てのプレイが動画配信されていた 「Challenge for Change!」のスローガンを抱え、3年目となる本大会。ライブ配信をはじめとした動画コンテンツの充実や、会場内で様々なイベントが開催され多くのギャラリーで賑わっていた 会場内でもスマートフォンを使って快適に8ホールの様子を視聴することが出来た ライブ動画配信をはじめとした動画コンテンツも充実しており、最終ホールの大型LEDビジョンや、会場各所にLEDビジョンやモニターなどが設置され、様々な場所で試合の様子を楽しめるように工夫されていた。 テレビ局が主催するスポーツイベントとして、チャレンジと工夫が随所に感じられる作りとなっていた。 イベントブース内のスイッチャーには株式会社アイティーブイ所有のV-800HD MK II 大会本部に設置されたXS-84Hに映像ソースが集約され、会場内のビジョンやモニターへの送出を行なっていた。株式会社アイティーブイ所有 テレビ局がインターネット向けに動画配信をする理由とは スマートフォンでの動画視聴が当たり前となった時代において、テレビ局がライブ動画配信を行うポイントは、どういったところにあったのだろうか?今回のライブ動画配信を担当されたKBC九州朝日放送株式会社 総合編成局 メディア戦略部の松崎好彦部長と水口剛部長代理にお話を伺った。 KBC九州朝日放送株式会社 総合編成局 メディア戦略部 松崎好彦部長(写真右) 水口剛部長代理(写真左) ――今回のライブ動画配信を行われた経緯について教えてください 松崎氏:4年前から大会のライブ動画配信の実施はしていました。ライブ動画配信の一番の目的は、大会のPRになりますね。いかに多くの人に、大会を知ってもらい、楽しんでもらえるか。そして、地上波生放送の視聴をより楽しんでもらえるように、放送内容もテレビ局が作るコンテンツとして演出・技術の両面で通常の放送と同じような体制で実施しています。 水口氏:今回の8番ホールは、過去にホールインワンが何度も出たホールになります。観戦スタンドとDJブースが配置され、賑やかな雰囲気となるようにイベント自体も工夫しており、ライブ動画との相性も良かったと思います。 松崎氏:8番ホールは、ホールインワンの可能性が高いホールですから、プレイを撮り逃さないようにすることも大事になります。全てのプレイをライブ動画配信しながらXDCAMでの収録も行うことで、ENGのチームが、8番ホールの収録を我々に任せることが出来たことも、大きなポイントと言えます。全18ホールの内、1つのホールをスキップ出来ることで、ENGチームの移動や準備の面でも大きな変化が生まれました。 水口氏:地上波のゴルフ中継視聴へと繋げること、大会のPRという面もライブ配信の役割として大事なことなのですが、テレビ中継を含めた制作チーム全体での最適化を図っています。 ――機材構成について教えてください 水口氏:今回の中継には、日頃、本社オフィス内で使用しているV-60HDを会場に持ち込んで使用しました。放送用の中継機器との組み合わせとなるので、技術スタッフにも事前にV-60HDを触ってもらってから現場投入しました。 実況、解説者を含めて18名のスタッフが交代しながら担当することになりますので、これまで使ってきた放送用機器とも違和感なく使えることは重要なポイントでした。 V-60HDとV-1SDIを組み合わせて構成された今回の配信システム メインスイッチャーのV-60HD 松崎氏:今回のライブ配信のスタッフ構成という意味では、実況のアナウンサーも含めて若手スタッフ中心に編成しています。ゴルフ中継というのは、複数の箇所で起きている出来事を1つの画面で伝わるように作り上げていくという意味で、テレビのスポーツ中継に必要な要素が集約されていると言えます。今回のライブ動画配信の現場経験を通じて得られるものは大きいものがあると思います。 コンテナ内に設置された中継ブース ――V-60HDとV-1SDIの2台体制で使用されていましたが 水口氏:どちらもSDIとHDMIの両方の入力端子があることで、周辺機材の自由度が高くなったのが良かったです。タリー端子もついているので技術スタッフにケーブルを製作してもらって既存システムに組み込むこともできました。 また今回は、IP伝送のシステムを導入してみたり、新しい技術もテスト的に利用したりしています。V-60HDからはリモート・カメラのコントロールも出来るとのことなので、次回はそちらも利用してみたいと考えています。 テロップやスーパーなどはV-1SDIで合成されていた グリーン付近に設置された有人カメラ ――メディア連動というのは積極的に行われているのですか? 松崎氏:これまでも、地元ホークスの野球中継や中洲JAZZ、久留米で開催されたテニス大会の中継など、福岡を中心としたスポーツ大会・イベントと連携した形でネットメディアを積極的に活用しています。 通常は局内の常設機材としてV-60HDを使用している ――テレビ局がネットを活用することへの社内の反応はどうでしたか? 水口氏:災害特番などで、地上波とネット配信をサイマルで行うことは一般的になってきていますし、特にネガティブな反応はないですね。 松崎氏:昔は、ラジオとテレビですら、互いの番組について紹介することはなかったですが、現在はインターネット含めて効果的なPRの場として、浸透したと言えますね。 ――大会前から、局内の常設機材としてV-60HDを活用されていたとのことですが導入のポイントは? 水口氏:これまで、SDIの切替機を使ってスイッチングをしていましたが、パソコンの素材を使用したい場合などにコンバーターが必要になりますし、ストリーミングのエンコーダーの入力もHDMIになるので、端子が豊富にあることで機材構成がシンプルになって、トラブルが少なくなりました。 松崎氏:Tバーを使ったスイッチングが出来て、DSKも付いていますし、スポーツ中継などの用途には、十分な機能が入っています。 水口氏:今回の大会中にも局内からの配信が必要になった※のですが、今大会用に持ち出してしまっていたので、以前のシステムを使っての配信となって、正直大変でした。今後は、複数の現場にも対応できるように、追加導入も検討したいですね。 ※大会開催直前に九州北部豪雨が発生 ――テレビ放送とライブ配信の連動というところでの今後の展望などはありますか? 松崎氏:テレビ局の視点で言えば、人材育成という面からもテレビの番組制作力・コンテンツ制作力を発揮できる現場が増えるというのは大きなポイントです。 水口氏:ライブ配信の現場で、機材や技術の面で新たな取り組みをすることで、テレビ放送にも生かしていくことが出来ますし、実際の現場でテストすることで、様々な課題や演出意図に合わせた機材選定の最適化などが可能になります。 松崎氏:今回のライブ配信のように、1つのホール(8番ホール)をリアルタイムで配信しながら、放送用素材の収録を同時に行うことで、ケーブルの敷設ルートからENG取材班の移動スケジュールまで、大きく変わってきます。そういった裏側の工夫は、様々な現場で今後も生かしていきたいと考えています。 水口氏:KBC九州朝日放送のYouTube公式チャンネルのチャンネル登録者数は1万4千人となっていますので、ライブ配信や新作動画の通知を多くの方にお知らせすることが出来ます。高速回線の普及で、スマホでの視聴も簡単になったことで、より多くの人に、動画コンテンツを届けることが出来るようになり、テレビ局の特性を活かしたコンテンツ作りも続けていきたいと考えています。 松崎氏:これまでも、地域スポーツやイベントに連動する形で、ライブ配信を行なったり、地上波放送との連携したコンテンツ作りを行なってきましたが、視聴機会の多様化により、改めてテレビ局の番組制作能力が、ライブ配信や動画配信でも必要とされてきていますので、より魅力的なコンテンツ発信をしていきたいと思います。 テレビ放送の映像制作スキルが試される現場 今回、RIZAP KBCオーガスタゴルフトーナメントの中継を取材させていただき、改めて、メディア環境の変化、特にスマートフォンの利用率が87%※と高いことからも動画コンテンツの利用方法や視聴場所の変化は大きいと感じた。例えば、自宅ではCS放送による中継を楽しみ、移動中もスマートフォンで8番ホールのライブ配信をチェックしながら会場へと向かう。会場内に着けば、最終ホールも含めた様子を場内のビジョンで確認することが出来る。 このような利用スタイルとなった時にこそ、1画面内で情報デザインを行い、短時間で、いま起きていることを伝えることが出来る、テレビ放送の映像制作スキルがより必要とされていることを感じることができた。 ※総務省「平成30年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」より 【引用元:PRONEWS(https://www.pronews.jp/column/20191010163000.html)】 使用製品 V-60HD V-1SDI V-800HD MK II XS-84H お問い合わせ システムに関するお問い合わせは、こちらから。 お問い合わせ