INTERVIEW

「これからの学び、ICT機器の活用と実践」

平井聡一郎 氏

株式会社情報通信総合研究所 ICTリサーチ・コンサルティング部 特別研究員

茨城県の公立小中学校で22年間、市町及び県教育委員会の指導主事を11年間勤務後に退職、2017年より現職。現在、自治体、学校でのICT機器導入及び活用推進に関するコンサルティング、ICT機器活用、プログラミング等の教員研修、オンライン学習の推進に取り組んでいる。文部科学省ICT活用教育アドバイザー、総務省地域情報化アドバイザー等を歴任。多くの自治体、教育関連企業のアドバイザーを務める。

ローランドとの関わりについて

小学校の校長時代に教育関連の展示会でローランドブースを訪れたのがきっかけです。ローランドが楽器メーカーというのは知っていましたがICT機器としての切り口で見た時にローランドの音響機器や映像機器が非常に優れていることに気づいたんです。それでまずは場所を選ばず活用できる電池駆動アンプなどの音回りから始まって、その後校内放送や学校行事の映像演出をするためのAVミキサーを導入しました。私はこの頃から子供たちの学びにとって「アウトプット」はとても大事な要素だという認識があったので、音や映像のための質の高いアウトプットの道具という意味でローランドは楽器だけじゃなくて教育ICT機器を開発しているメーカーなんだと見方が変わりました。

今の日本の教育ICTに関わる現状についてどのように捉えていますか?

2019年12月に国からGIGAスクール構想が出てきて、「情報端末の一人1台」やそれを活用するための「ネットワークの整備」、しかも教育現場がこれまで距離を置いてきた「クラウドの活用」、という柱が提示されました。これだけでも大きな変化でしたが、そこへ予想もしていなかった新型コロナウイルスの流行が否応なく教育現場の変化を決定づけることになりました。このGIGAスクール構想が実現することで学校がやれることが格段に広がり、結果として学びの姿が大きく変わるような状況が生まれると思っています。また必ずしもこれまでどおりの学校運営が出来る保証が無くなったことで幸か不幸か教育現場で無くてもよいもの、そして本当に必要なものが浮き彫りになりました。まさにコロナによるピンチがこれからの教育を大きく変えるチャンスになっていると感じています。

折しも学習指導要領が変わるタイミングでした

非常に運命的なものを感じています。というのも10年に一度改訂される学習指導要領ですが、今回その改訂のねらいに「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成」というものがあって、まさに今それが必要とされている状況に他ならないからです。子供たちがこれから迎える時代は私たち今の大人が経験してきたことよりもはるかに高いレベルの対応力を要求されます。なかでもテクノロジーを理解し、活用していくスキルは特に重要になるのですが、生まれた時からテクノロジーに親しんでいる今の子供たちは新しいものをどんどん吸収することで「テクノロジーにより年齢を(我々大人を)超える」現象がもう起こっています。このような状況の中では教育においても前例や慣例に縛られない自由で柔軟な学びを実現していく必要があります。それが自ら学ぶ主体的な行動につながっていくからです。

具体的にはどのような学びが重要になるのでしょうか

冒頭でも触れたとおり、私はアウトプットを重要視しているのですが、質の高いアウトプットをするためには良質な学びを効率よくインプットする事が必要になります。プロジェクト・ベースド・ラーニングはそれを実現するひとつの方法だと考えています。これは問題解決型学習と言ったりもしますが、子供たちが主体となって少人数のグループで課題や問題を自律的に研究、協議、意思決定、情報検索等で解決していく学び方です。ポイントは従来の「正解・解答のある課題に取り組む」のでなく「正解・解答のない課題を通して問題解決へのアプローチ方法を身につけること」です。こういった能力こそこれからの子供たちに身につけさせたいのです。

アウトプットのツールとしてAVミキサーが活用できる、という事ですか?

子供たちのアウトプットは手を挙げて発言することから始まり、教室の前に出て来て発表し、さらに大きな紙や黒板を使って、そしてパソコンでスライドを作って大型のディスプレーに映しながらグループで発表する、などと進んでいきます。人前で自分を表現することはツールを活用することで表現の幅や伝わり方が変わってきますので、目的に応じたツールの使い分けを学ぶことも重要です。AVミキサーは音声と映像を手軽に取り扱える非常に便利なICT機器です。デジタルコンテンツにおいてまず音声がクリアあることは実は映像よりも一番重要なポイントなんです。音が聞こえづらいのはある意味、先生や友達の声が聞こえないのと同じです。また、今後映像を取り扱う機器はどんどん増えてきますので、複数の映像ソースを簡単に調整してアウトプットする機能も必須です。

学校での活用シーンはたくさんありそうですね

実際に私もいろんな活用をしてきました。卒業式で子供たちが6年間の思い出を発表するシーンではBGMを流しながらプロジェクターで各自が持参した写真のスライドショーを映しましたし、委員会活動として校内LANを使って各教室の電子黒板にお昼の放送を配信したり、運動会ではPA用のミキサーとしても活躍しました。特に運動会では当日来られなかった遠方のご家族のために運動会をライブ配信したのが好評でした。そして今後は、学びのためにこのAVミキサーを活用していくことになります。例えば、遠隔授業や動画コンテンツの制作、総合的な学びとしての番組制作、など学校はコンテンツの宝庫です。特にプロジェクトとしてのアウトプットを皆が知っているTVの「番組」という形にする事はまさにアクティブラーニングを具現化する形になると思っています。

そしてこの春の休校措置により、まだ一部の学校ですがオンライン授業も導入され始めました。

自治体によるこれまでの取り組みの違いによって状況はさまざまですが、オンライン授業は確実に必要な学びの選択肢のひとつになっています。今後端末やネットワークの整備が進むのと同時並行しながらオンライン授業への対応が迫られます。これは非常時の話というだけでなく、平時おいても夏休みなどの長期休暇もそうですが、通常の自宅学習においてもそれぞれのニーズに対応した教材の提供など、場所を選ばない様々な学びやコミュニケーションの形が広がるからです。さらに授業だけでなく、今後は授業参観や三者面談、学校行事などもオンラインでの実施が選択肢のひとつになっていくのではではないでしょうか?その時にこのようなAVミキサーがあれば誰もが質の高いコンテンツを提供する事が可能になります。例えば音や映像のクオリティが上がることでコミュニケーションが充実し、学習目標の達成度合いも向上するなど、様々な面での効果が期待できます。

最後に

私たち教育者の大きな役割のひとつに子供たちが今後生きていくために必要な能力を身につける手助けをしていく事があります。そのため教育者にはある程度将来を予測する能力が必要になるわけですが、特に新しいテクノロジーの理解と活用は待ったなしのテーマなんです。そして教育現場の主役である子供たちのためにもわれわれ教育者のアウトプットの変化が求められています。このような今まで教育現場に無かったICT機器については参考になる実践事例が続々と共有されていくと思いますが、これらの情報は先生方の新たなアウトプットのためにもぜひ積極的にインプットしていただければと思います。